これは、出口を見失ってしまった「記憶」をめぐる物語。

寝入りばなにこめかみを叩かれた時、思わず目を開けてしまった「私」は、「いきどまり」という物の怪に取り憑かれてしまう。「いきどまり」は、夜な夜な現れては、関西弁で、さまざまな奇妙なことをまくしたてる。

「私」は故郷を離れ、OLとして大阪で働いているのだが、「いきどまり」とのやりとりのなかで、次第に、「私」の過去のある出来事が明らかになっていく……。


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 寝入りばなに、こめかみを、とんとんと叩かれた。思わず目を開けそうになる。私は、かろうじてその衝動を抑えた。
「いきどまりだわ」
 寝入りばなにこめかみを叩かれた時は、絶対に目を開けてはいけない。子供のころ、お兄さんにそう言われたのだ。
「里を離れて、西に行くほど、いきどまりが出るんだ。おまえはいきどまりに狙われやすい気質に違いないから、気をつけなければいけないよ」
 目を開けてはいけない。絶対に。
 とんとん。とんとん。いきどまりは、執拗にこめかみを叩いてくる。眠気がどんどん遠のいていく。


 私は、そおっと目を薄く開けてみた。枕もとに、何者かが正座している。しまった、と思った時はもう遅かった。全身の筋肉が硬直して、目を閉じることも、身動きすることもできない。
「ほお、目開けたんか」
 関西弁だ。土地柄だろうか、それとも、いきどまりというのは関西弁が普通なのだろうか。
「あんた、里のお兄さんに言われたんやろ。寝入りばなに、こめかみをとんとんされても、目開けたらあかんて」

(1「プロローグ」より)

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  • Binding: Kindle Edition
  • Product Group: eBooks
  • Product Type Name: ABIS_EBOOKS
  • Manufacturer: Furasukoshobo
  • Release Date: 2017-11-28